【令和2年7月豪雨】流される母に手が届かず 球磨村職員、千寿園で「誰かの声」に救われた命

九州豪雨(熊本県)

九州豪雨で被害が大きかった熊本県球磨村で被災者支援にあたる村住民福祉課長の大岩正明さん(51)は豪雨当日の4日、母ユウコさん(83)が暮らす同村渡の特別養護老人ホーム「千寿園」で救助活動に加わった。

入所者を上へと避難させていたが、水位は一気に上昇。車椅子に乗ったまま流される母が見えたが、手が届かなかった。

「全員を助けたい」と決死の救出を続けたが、母を含む入所者14人が帰らぬ人となった。

4日午前4時過ぎ、村全域に避難指示が出たため、大岩さんは役場に向けて車を走らせていた。寸断された道を避けて渡地区にたどり着き、村の指示で国道の冠水状況などを確認していた同6時半ごろ「千寿園が危ない」と聞いた。消防団と合流して急行した。 

到着すると、球磨川の支流からあふれた水が1階に流れ込んでいた。4人1組で入所者を車椅子ごと2階へ運び上げた。「お袋がいるのは分かっていた。みんな助けるつもりで順番は関係なかった」。しかし、2部屋しかない2階はすぐに満員となり、1階に残る入所者は家具の上などできるだけ高い場所に上げて助けを待った。ユウコさんはテーブルの上の車椅子に座ったまま眠っていた。

水かさは膝から腰、そして顔へと瞬く間に増していき、入所者を乗せた家具類も浮き上がった。顔が水につかっては出てを繰り返し「もうだめだ」と思った。その時、ユウコさんが乗ったテーブルはさっきより離れて30メートルほど先で浮いていた。目の前に1階の天井が迫り、別の入所者の女性を抱えていたため身動きがとれない。母の姿を見たのはそれが最後だった。

あきらめかけていた時、「死んだらだめだよ」と誰かの声が聞こえた。顔を上げると、2階の天窓からロープが投げ込まれていた。抱えていた女性を浮いている椅子に座らせ、椅子にロープを巻き付けて女性を救出した。大岩さんも引き上げてもらい、助かった。

救助された人たちの中に母がいない。でも「生きていて」と願っていた。水が引いた4日午後、1階に下りると、近所の人が「ユウコさんここにいます」と言った。駆け寄ると、最後に見た寝顔と同じ、穏やかな表情で母は息絶えていた。「怖い思いをする前に寝ていられたのは救いだった」と自分に言い聞かせた。ソファに座る母親の顔についた泥を、職員が泣きながら拭き取ってくれた。

球磨村で生まれ育ったユウコさんは、神瀬(こうのせ)地区で家族が経営する米店「大岩商店」を切り盛りした。明るく、社交的な性格で周囲にも好かれる人だった。店を大岩さんの弟に任せた後、5年前から千寿園に入所。面会に行ってスプーンでご飯を食べさせると「ありがとうございますー」と返してくれたのを思い出す。

最近は新型コロナウイルス対策の面会制限などで、思うように会えない日々が続いていたが、火葬では息子3人がそろって見送ることができた。「母に呼びかけられて最後に会えた感じがする。無事で居られたのは、お袋が身代わりになってくれたからかも」。大岩さんは母への思いを胸に、壊滅的被害を受けた村の職員として、避難所運営などに奔走している。

毎日新聞

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